2017年12月5日火曜日

第27回 翻訳祭に参加した:セッション

11月29日に東京で開催された翻訳祭では、4つのセッションを聴講した。

1.よくみる和文英訳の落とし穴(ベンジャミン・トンプキンス氏)

講師のベンさんは同じ九州人で(え?と思われるだろうが、ご本人が「九州男児ですから」と仰っているので間違いない)、飲み仲間でもあり、マラソンの先輩でもある。
普段、英訳は全くといっていいほどやらないが、英訳にも和訳にも共通するルールがある。
このセッションでも、無駄のないすっきりとした英文を書くことを強調されていた。
自分のことを考えてみると、自信がない訳文は長くなりがちだ。
ポイントを明確に伝えられず、だらだらと文章が長くなってしまう。
動詞句でなく動詞1語で表現する「Power Verb」という考え方は、先月の翻訳フォーラムで高橋さきの氏が講演された「述語から読む・訳す」につながるのではないだろうか?
できれば、福岡で「ワークショップ形式」でじっくりやってみたいなと思った。


2.ミニ講演会 第2部

1人10分という限られた時間でプレゼンを行うスリリングな試みだった。
英語以外の言語、翻訳会社側から見たテーマ、通訳に関するプレゼンなど盛りだくさん。
何というか、映画の予告編を見ているような感じで、ロングバージョンも見て(聞いて)みたいと思った。
中でも印象に残ったのは(株)テクノ・プロ・ジャパンのお2人(梅田氏と加藤氏)のお話。
最近たるみがちな私はキュッ!と身の引き締まる思いだった(身体は引き締まらないが)。
川月現大氏の「あいまい文のもたらす不経済効果と対応策」は、前日の十人十色の勉強会でロングバージョンを聞いていた。
「あいまい文」は個人的に最近とても気になっているテーマで、10分という超ショートバージョンはビートがきいていて「お?」というノリだった(ちょっと何言ってるか自分でもわからない)。
齋藤テリー氏のプレゼンは翻訳会社向けの内容だったということで、ピンとこない部分があったけど、恐るべき神パワポだった。
テンポといい、見やすさといい、何もかもがパーフェクトで鳥肌が立った。


3.書籍を訳すという仕事(村井理子氏、伊皿子りり子氏)

この1年ちょっと、ネットで村井さんをウォッチしている。
村井さんのブログにはお腹を抱えて笑ったり、ホロリとしたり、実に栄養豊かな文章を書く人なのだ。
訳書も拝読して、面白かったので親戚の子供にもあげた。
偶然、ホテルのレストランやエレベーターで一緒になって、間近で「生村井さん」を見ることができた。
誤解を恐れずに言うと、お姿は「普通のおばさん」なのだ。
「あ、私と同じ普通のおばさんだ」とシンパシーを感じてしまった。
キョンキョンみたいに「同い年だけどまるで別の生き物」ではない。
村井さんは想像通り、読むこと、書くことへの愛情があふれた人だった。
「ああ、この人の文章が面白いのは当たり前だな」としみじみした。
あと、なぜかはわからないが「村井さんが作るご飯はきっと美味しいに違いない」と確信した。
名刺を持っていないときに限って接近したので、名刺交換ができず残念だった。


4.翻訳者のための辞書環境構築入門(関山健治氏)

最後のセッションは悩んだ結果、辞書のお話。
関山さんについては、福岡の勉強会後に著書の『英語辞書マイスターへの道』を読んでいた。
ただ、本で読むのと直接お話を聞くのでは、CDで聴くのとライブに行くくらいの違いがある。
ちなみに、関山さんは大変にイキのいい声をしていらした。
大学の講義では、後ろの席にいる生徒の耳にもしっかり届いているに違いない。

辞書の使い方・引き方はデジタル化が進んで大きく変わったわけだが、デジタル辞書ならではの使い方がたくさん紹介された。
「和訳をするときは英和辞典があればいいのか?」という根本的な問題提起は、翻訳勉強中の方には「刺さった」のではないだろうか?
普段、英語から日本語に訳すのに、英和だけで済むことはあまりない。
英英辞典も使うし、国語辞典も使う。
複数の辞書を行ったり来たりしながら、「ベストな着地点」を探している。
柴田元幸氏と村上春樹氏の対談記事にも、同じようなことが書かれていた。

しかし、90分の講演を4つというのは、大学の授業と同じだ。
終わった後はお腹がペコペコになった。