2023年8月14日、福岡のライブハウスで鮎川誠追悼ライブが開催された。会場には約200人のファンが詰めかけ、超満員となった。まこちゃんとゆかりのあるゲストが出演したライブは2時間半にも及び、ローカルニュースでも取り上げられた。
「いつもと同じようにこうやって向かってるけど、ステージにまこちゃんは出てこないんだよね」と話しながら会場へと向かった。ライブハウス前にはいつもの倍くらい人が並んでいた。ほとんどの人がシナロケやサンハウスのTシャツを着ていた。私も去年買ったサンハウスの久留米限定版Tシャツを着用して臨んだ。
ステージの前面にはスクリーンが張られ、シナロケのロゴが投影されていた。開始予定時刻を5分ほど過ぎたところで、いつものオープニングSE、ロケット発射のカウントダウン開始。カウントがゼロになった直後、スクリーンに登場したのはまこちゃんだった。いつもと同じように『バットマンのテーマ』から始まった。まこちゃんのあの笑顔が私たちを迎えてくれた。
そしてスクリーンが降りると、シナロケのメンバー(ボーカルでまこちゃんの三女ルーシー、ベースの奈良さん、ドラムの川嶋さん)とサポートギタリストの澄田健が登場。澄田健はブラックビューティーを高々と掲げた。
ブラックビューティーをどうするのか?とヤキモキしていたファンも多かったと思う。長女でモデル・画家の陽子ちゃんは「レスポールもお父さんと一緒に棺に入れたかったけど……」と言っていたし、それが可能であればそうしてほしいと私も思った。まこちゃん以外が弾くくらいなら、もう音が出なくなってくれたほうが……とまで思ったのだ。
しかし、そこには別のギタリストの体を借りて、咆哮を上げるブラックビューティーがいた(「あった」ではなく「いた」のだ)。ライブの1週間ほど前に澄田健がTwitterでブラックビューティーのことをつぶやいていた(こちら)。
澄田健のギターはまさにGoing His Wayだった。慣れないギターで手こずったかもしれない。それでも彼は、まこちゃんのプレイに寄せることをせず、あくまで正面からがっぷりと組んでいたように見えた。暴れるブラックビューティーと徐々に和解し、大音量で澄田健のギターを轟かせ、その音に私は圧倒された。
これまでは傍らに立つ父に守られていたルーシーが全力でバンドを引っぱり、堂々としたパフォーマンスを見せてくれた。そこにはシーナもいないし、まこちゃんもいない。でも、そこにはシーナもいたし、まこちゃんもいた。涙は止まらないのに、笑顔がこぼれてしまう。そんなハッピーなライブだった。
8月16日、全国に先がけて上映が始まった『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』を観に行った。お盆休み明けの平日だったが、思ったよりお客さんが多かった。
元は福岡のテレビ局が制作した30分のドキュメンタリーだったが、その後60分の拡大版が全国ネットで放送され、まこちゃんが亡くなったことを受けてさらに90分に拡大したバージョンが映画館で上映されることとなった。映画版には、ゆかりのあるミュージシャンのインタビュー映像も追加されていた。決して威張ることのない、優しく楽しいまこちゃんとの思い出が語られた。そしてそれは、私の中に残るまこちゃんの思い出と重なった。
映画館を後にしながら、「もうまこちゃんはいないんだ」と強い喪失感に襲われた。一昨日のライブでは感じなかった感覚だった。
こうして、まこちゃんの初盆を終えたわけだが、まこちゃんがいなくまっても世界はやっぱりぐるぐる回り続けている。2018年にまこちゃんの言葉を聞いて「ギター弾かねば!」と押し入れからギターを取り出した私は、今年12月、40年ぶりのライブ出演が決まった。しかも、まこちゃんが立ったのと同じステージだ。あのとき、シナロケのライブに行かなければ、私のギターは今も押し入れにしまい込まれたまま、私も仕事や介護に追われてすり切れるだけの人生だったのだ。
まこちゃんは甲本ヒロトの人生を変えたけど、私の人生も変えたのだ。
ヒロトが「あのレスポール、生き物だよ」と言っていて、「あ、この人も同じように感じたんだ」と思った。まこちゃんのブラックビューティーには意思があった。生きてる限りロックするって。