今回はお金の問題について書いておきたい。
父が亡くなる2週間前から実家に戻り、都合1か月実家で暮らしていたが、お金の問題は頭痛の種でもあった。家族であっても、金銭感覚は違う。それが原因でケンカすることも何度かあった。たとえば、仏壇の花。我が家はガーデニング好きの祖母、父と、自宅で花を育て、それを飾ってきた。ところが、父が入院して以来、残った人間は誰ひとりガーデニングをしない。興味もない。庭はどんどん荒れていく。仏壇に供える花は買いに行くよりほかない。仏壇だけではなく、お墓に供える花(月に3回)、自宅の前にある恵比寿さんに供える花。花だけで月に1万円近い出費になってしまうのだ。
「造花にすれば?」
猛反発を食らった。母にも弟にも猛反発を食らった。コスト意識だけでモノを言ってはいけなかった。ここは実家の価値基準に合わせることとした。
しかし、葬儀となるとかかるお金も桁が違う。祭壇の値段は飾る花によって違う。すべてが金だ。コスト意識が高い私は「一番安いやつでいいです」と言いたい。なんなら最初に「予算は香典返し込みで100万!1円たりとも超過は認めません!」と言いたい。しかし、私は喪主ではない。
そこで、祖母の葬儀の記録を見せて「これくらいでいいんじゃない? あれ、よかったやろ?」と、母と弟をできるだけ安い方の選択肢に誘導し続けた。それでも、見積額は私の予想を30万超えていた。互助会の積立金など焼け石に水だった。
次に、お寺に払うお布施問題。そう、「お布施の金額はお気持ちで~」問題だ。これも前回の葬儀でいくら払ったかを確認し、それより減額した。正当化させてもらうと、我が家は菩提寺の住職が月に2回、読経に来ている。つまり、月に2回ずーっとお布施を払っているのだ。何十年も前から。葬式だけの付き合いではないのだ。だから削った。祖母のときには30万出したけど、今回は20万にした。
ただし、七日ごとの法要でも毎週お布施を払うことはわかっていたので、長期的に見ると大きな減額ではないはずだ。私がケチであることは認める。
葬儀費用は式典そのものにかかる費用(祭壇、棺、骨壺、花、食事代など)と、葬儀後に発生する費用(香典返し)がある。コロナ禍の葬儀ということもあり、参列者は少ないのではないかと予想した。だが、この予想は外れた。70名以上の方が参列してくださった。そして困ったことに、「相場以上に包んできた人」が多かった。
後日、香典返しを送る対象となるのは1万円以上包んできた人だ。それに満たない金額であれば、当日受付で渡す返礼品(お茶など)のみとなる。普通であれば近所の人は3000円、せいぜいがところ5000円だろう。ところがである。1万包んできた人が結構いた。みんな涙を流しながら「お父さんには本当によくしてもらった」「お父さんには長年お世話になった」と言うのだ。私の頭の中では「なんということでしょう!」というナレーションとともに、ガシャンガシャン数字が増えていくのみであった。
まあ、人徳ではある。
ちなみに、いただいた香典は名前、金額、関係をスプレッドシートに入力して、金額順に並べ替えできるようにした。
こうして予想外に香典額が大きくなり、最終的な葬儀費用は170万にもなり、私は白目をむいたのだった。もちろんこれはお寺に払ったお布施は入っていない。四十九日の法要が終わるまでにかかったすべての費用を合計すると、なんということでしょう! 約210万にもなった。もちろん、地方によって冠婚葬祭費用は大きく異なるが、佐賀(特に農業関係者の多いエリア)ではこれでも少ない方だと思う。なんせ、葬儀委員長がケチだから。
さて、相続にもお金はかかる。
まず、被相続人および相続人の各種証明書の発行手数料が最終的に8000円ほどかかってしまった。中でも大きかったのが原戸籍という、生まれてから死ぬまでの戸籍だ。これは、父の戸籍をさかのぼり、父が生まれた時点に存在した戸籍まで全部が必要なのだ。これで3000円以上かかった。
何度も役所に行く手間を省くため、住民票や印鑑証明は1、2通多めに取っておいた。結果、余ってしまったので、マイナンバーカードを使ってコンビニ発行の申請も済ませておけば、ここにかかるコストを抑えられると思う。
不動産の相続に関しては、すべて司法書士に任せた。手数料も込みで登記の変更にかかった費用は約20万。義父のときもだいたいこれくらいだった。たしか、所有している不動産の評価額によって金額が異なるようだ。
金融機関の相続に関しても、行政書士だか司法書士だかに頼むとやってくれるらしい。こちらは、葬儀社の紹介レートで1口座7万円とあった。絶妙な料金設定である。
さて、こうして約230万ものお金が飛んでいってしまったのだが、ここで最大の問題は、「親の口座からお金が下ろせない問題」だ。両親のメインバンクはJAだったので、JAの担当者に電話すれば現金を自宅まで持ってきてくれる。ところが、父の口座は凍結されていて下ろせない。母のJA口座も途中で力尽きてしまった。そこに最後の入院費の請求が来た。
「じゃあ、郵便局かS銀行でおろしてきて。暗証番号はXXXXだから」と通帳を渡された。面倒なので母の口座から直接病院に振り込むことにした。
ところが、ATM画面に表示されたのは「お取り扱いできません」のエラーメッセージ。
窓口で尋ねると、高齢者の口座から一定金額を超える送金はできないらしい。要するに、オレオレ詐欺から高齢者を守るためのしくみらしい。しかも、私は本人ですらないわけで、私が母の口座から振り込みをするには、ゆうちょ銀行所定の委任状に記入のうえ、私の身元を証明する書類を提示して……と、面倒な手続きが必要だということで、私の口座から振り込んだ。
後日、自宅に来てくれたJAの担当者から、高齢者の口座からの引き出し、振り込みには限度額があること、限度額は金融機関によって異なること、葬式代だというと故人の口座からであっても緊急措置として30万まで引き出せるということを教わった。「まあでも、30万じゃお葬式出せませんよね~」とも言っていた。
懸案だった相続税については、司法書士と一緒に試算したところ非課税枠に収まっていた。準確定申告に関しては、税務署に問い合わせたところ、収入が400万に満たなければ申告の必要なしということだった。
今回の教訓。JAバンクは電話一本で家まで来てくれるので最強。口座は減らせ。タンス預金はバカにできない。
そして、葬式はまず最初に全体の予算を決めろ!