2018年の冬に人間ドックを受けたときに、物忘れがひどくなっていたので脳ドックも追加した。後日、「動脈瘤の疑いあり、要精密検査」という結果が届いた。精密検査を受けると、2.5mmほどの動脈瘤と疑われる瘤のようなものがあるが確定はできない。確定には1泊入院で血管造影検査が必要。通常、この大きさであれば破裂する可能性は1%にも満たないため、年に1回のMRI検査を推奨するという。祖母に脳梗塞、父にくも膜下出血、狭心症の病歴があったため私自身も「高リスク」と判断され、半年に1回のMRI検査をすすめられた。
破裂をする前に処置してしまいたいという人はもちろん手術を受けることも可能。保険適用となるのは5mm以上の動脈瘤(2020年以前はもう少し基準が厳しかったらしい)。それに満たないものは全額自己負担となり、その費用は約140万円らしい。
実は、精密検査を受ける前にかかりつけの病院で「この前、脳ドックで2mmくらいの動脈瘤のようなものが見つかったんですけど、このくらいの年になったらみんなちっちゃい動脈瘤のひとつやふたつありますよね?」と言ったら、「ありませんよっ!すぐ脳外科行って!今日、この後すぐに予約して!」と怒られた。脳ドックの「要精密検査」をスルーしてはいけないと学んだ。
2021年1月の定期検査で「うーん。ちょっとね、瘤の形が変わってるんですよ。大きさも4mmくらいになってるし。一度、血管造影できちんと調べませんか?」と説得されて、「じゃあ、折れた腕がもう少し回復してから」と1か月後に入院を予約。担当医には「大丈夫。痛くないですよ。ただね、検査の後、止血のために3時間ベッドに寝たきりになるのがつらいって皆さんおっしゃいますけどね」と優しく励まされた。最近の医者は本当に優しい。あと、本当に痛くないのだろうか?
コロナ禍ということで、入院前に全員のPCR検査を行っているそうで、200円ほどで検査を受けられた。入院当日まで外出を極力自粛すること、毎日検温して記録することを言いつけられた。「パジャマやタオルは衛生管理のため病院で用意しますから持ち込まないでください」とも言われた。洗面セットも販売しているらしく、おそらく「手ぶらで入院」も可能ではないだろうか。ただし、いまだに保証人は必要。印鑑は不要。この点については、たとえばクレジットカードを入院時に提示しておくとか、デポジットを払うとかで保証人なしにできるのではないだろうか。
ようやくネットでカテーテルを使った血管造影検査について調べる。父が抗がん剤治療をしているときに何度も受けていたが、完全に「他人事」だったので父がどういう感想を漏らしていたかも覚えていない。確か「お父さんは血液さらさらのお薬飲んでるから、止血に時間がかかるんですよ」と看護師さんに言われた気がする。痛さとつらさについては確かな情報が得られず恐怖が募る。
土曜日午前中に入院、午後検査、翌朝退院。直前の説明でリアルなイラストが載った説明を渡される。「多少は痛いです。麻酔をブスッと注射するわけですし。でもその後の3時間の方がつらいと思いますよ」と言われる。検査を担当する若いイケメン医師は渋い表情の私を「うふふ。大丈夫ですよ」と笑顔で励ましてくれた。
ストレッチャーで検査室に運ばれ、バイタル監視用の器具を装着される。点滴のラインから鎮静剤を投与される。ビール大瓶1本飲んだくらいのいい気分になる。「ぼんやりしてきました?」「は~…」「あれ?意識ありますね。お酒強いですか?」「ええ」「あ~、じゃあ効かないですね。でも、鎮静剤追加すると危ないからこのまま麻酔打ちます」と。針が刺さった瞬間から2秒くらい痛かった。「ひっ!……あ、もう大丈夫です」という感じ。
2分ほど麻酔が効くのを待ってカテーテル挿入開始。痛みも圧迫感も何も感じない。次の難関は造影剤が注入される瞬間だとネットで読んだ。頭がズキズキ痛む人がいるらしい。さいわい頭痛はなく、視界がスパークしただけだった(誇張でもなんでもなく、火花のようにスパークして「おお~すご~い!」と声を上げた)。左右の脳の血管を撮影し、止血処置を施して1時間弱で検査は終了、病室へ運ばれ3時間の安静を命じられる。腕と左足は動かしてもいい。上体起こすの禁止。寝返り禁止。
ほどなく吐き気とめまいに襲われる。枕元に本、スマホ、Kindle、タブレットを用意していたものの、気持ち悪くて目も開けられない。1時間様子を見ても収まらなかったため吐き気止めを投与してもらう。さらに1時間後、吐き気とめまいは半減。さらに1時間後、止血のための重しを外して体を起こす。食事が運ばれてくる。吐き気が2割ほど残っていて味が濃いもの匂いが強いものは食べられなかった。つわりって大変なんだろうなと妊婦のみなさんに思いを馳せた。吐き気が消えたのは検査終了から4時間ほどたってから。トイレの問題は発生しなかったので、それだけは安堵した。
これまでに何度か手術を受けているが、全身、局所関係なく、麻酔が切れた後にほぼ毎回ひどい吐き気に襲われる。10年前に手術したときは翌朝まで水1滴たりと受け付けなかったので、それに比べると今回の吐き気はどうということはない。このように「これまでで一番の痛みや苦しみ」と比べれば、まあだいたいのことは大丈夫かなという気がする。ちなみに一番の痛みは開腹手術の後の痛み、2番目は腕を折ったときの痛み(先月)である。
翌朝、最後の血液検査(足から採血されたので今回の検査ではこれが一番痛かったし、針を刺されたところは24時間以上経った今もまだ痛い)、傷の確認後、退院手続き。迎えに来た夫が同席して検査結果の説明を聞く。「経過観察してきた右側の動脈瘤ですけど、これ、動脈瘤ですらなかったです。これは破裂する可能性ありませんからね。安心してくださいね。で~、左側なんですけどね。こっちに小さな瘤があってですね、これは動脈瘤かもしれないです。だから、引き続き半年に1回MRIで検査しましょうね。でも、3mmくらいだから今は破裂の心配はいらないですよ」と。なんだよ、まだ続くのかよ……。
検査中に医師との会話の中で、父が30年近く前にくも膜下出血で生死の境をさまよった話をしたら、「今は、くも膜下出血でも開頭することってあんまりないんですよ。カテーテル手術で治療できますから、入院も数日ですしね」と言われた。医療技術の進歩はすごいなと実感した。入院している人も比較的若い人が多く、大事に至る前に手術できた人も多いのだろう。ところで、私は検査中ずっと医師と会話をしていたのだが、彼はお喋りしながらカテーテルを通せるわけで、それもすごいなと感心した。私は会話をしながら翻訳はできない。
今回、期せずしてコロナ禍の入院を1日体験したわけだ。事前のPCR検査はもちろんだが、入院中ベッドの周りのカーテンは常に閉じられていたし、その外に出るときはマスク必須だった。検査中はマスクしてなかったけど、大丈夫だったのかな? まあ、陰性の人しか入院してないわけだけど。コミュ障なので個室を希望したところ、「感染症が発生したときのために個室を確保しているので、みなさん大部屋にしか入れません」と言われた。物音対策は耳栓を持参した。4人部屋に泊まったが、会話をしている人は皆無だった。こういう環境に何週間も入院することになると、精神的にまいってしまう人も多いと思った。この病院は総合病院ではなく、脳の専門病院なので感染症疑いの患者はまずいないと思われる。それでも、病院スタッフの負担は明らかに増えていたはず。医療関係者の負担が早く、少しでも減ることを願ってやまない。
今回の検査にかかった費用はPCR検査の費用も込みで約4万円。年2回のMRI検査は7000円弱。高いとみるか安いとみるか。ちなみに最初に人間ドッグのオプションで追加した脳ドックは約2万円だった。私は病気については、わりと慎重なスタンスなので医療費がかさみがちである。極論かもしれないが、コスト面を考えると放置しておくという選択肢もあるわけで、実際に何度かそれを考えたこともあった。「鈍器で殴られたような頭痛」が起きたときに救急車を呼べばいいのだから。それでもやっぱり、「このまま放置すると死ぬような目に遭うかも」という不安はできるだけ排除しておきたい。ぽっくり死ぬのは全然かまわないけど。
ところで、最初に脳ドックを受けるきっかけとなった物忘れについてだが、「加齢のせい」という旨をもっとオブラートに包んで言われた。