10月8日木曜日、無事に父の葬儀を終え、安堵したのもつかの間。そう、相続である。疲労困憊する私をさらにむち打つタスクが待ち構えているのだ。
10年前、祖母が亡くなったときに唯一の相続人であった父はひとりでその手続きをやった。70すぎて基本無職で時間はあるし、比較的スムーズに手続きは終わった。
それから数年後、夫の父が亡くなった。葬儀、相続すべての手続きを夫がひとりでやった。相続は、揉めた。揉めに揉めた。ほんの数十万のことで揉めた。そしてそれを私は実家で愚痴った。
あるとき、実家の自室でぼーっとしていると父と母に「ちょっとこっちに来なさい」と呼ばれた。テーブルの上には書類の山。保険証券、通帳、不動産登記簿などなど。「これはあんたに任せる。分割方法から手続きから全部、あんたに任せる」と言うではないか。いや、そうなるのはわかっていた。弟は実務能力がゼロなのだ。弟は「優しさ担当」であり、家族や親戚にあふれるほどの優しさをふりまき愛されているが、ポンコツである。今回判明したことだが、認印と実印の違いもわかっていなかった。
そうなのだ。祖母だって死ぬ10年も前に「ちょっとこっちに来なさい」と言って、私の前に同じ書類をドンと出したのだ。一家の長女は大変なのだ。
そこで、さっそく両親のメインバンクであるJAの担当者を呼び出し、全部の保険証券と通帳をチェックして、母が死んだ場合の分割方法、父が死んだ場合の分割方法をそれぞれ決めた。父からは「人が死ぬとすぐ金が必要になるから、ここに現金を用意している」と、いわゆるタンス預金のありかも教えられた。ただし、これは父が死んだときにはなくなっていた(生活費および娯楽費に消えた模様)。
今回、相続人は母(配偶者)、私(長女)、弟(長男)の3人である。相続財産は不動産(家、宅地、田)、現金(JA、S銀、ゆうちょ)、保険金。手続き関係は保険金の請求、各種加入保険の契約変更、遺族年金の手続き、固定資産税の納税者変更、公共料金等の契約変更、車の名義変更(軽自動車なのですぐ終わった)。パソコンなどは一切使えない人だったので、オンラインアカウントの類いはゼロ。
まず、葬儀翌日、弟が死亡証明書を手に市役所に向かった。佐賀市役所には「おくやみ課」という窓口があり、ここで必要な手続きをすべて教えてくれる。その後、郵便局に保険金の請求に向かったらしいが、必要書類が何もそろっていないので手続き方法を教えられ、口座が凍結されただけだった。この時点で、JA、ゆうちょの口座が凍結済みとなった。弟は週明けから仕事に戻った。すべては私に丸投げされた。予想どおりだ。
葬儀後に「明日から相続手続き始めるから、もう1週間こっちに残る」と夫に申し渡したところ、「え? 無理だって。1週間で終わるわけないって。頑張っても2週間かかるから」と言われた。なんだと?
相続手続きに当たって役所で収集した証明書類は次のとおり。
- 父:原戸籍(生まれてから死ぬまでの戸籍)、戸籍の附票、固定資産税評価証明書
- 母、私、弟:戸籍抄本、住民票、印鑑証明書
ちなみに発行手数料だけで5000円くらいかかった。
弟は独身で親と同居、つまり同じ戸籍なので父の原戸籍で弟の身元は確認された(ように思う)。問題は私だ。福岡まで証明書を取りに戻らねばならない。マイナンバーカードを持っていればコンビニで発行できるのだが、これには事前の手続きが必要である(しかもコンビニ発行できるようになるまで1週間くらいかかる)。結局、一度福岡に戻って証明書を集めた。現住所と本籍が違うので2つの役所に足を運ぶ羽目になった。本籍地と現住所が親の現住所と違う方は、マイナンバーカードを作ってコンビニ交付の申請も済ませておくことをおすすめしたい。わずかだが手間が省けるかもしれない。
さらに、母が実印の印鑑登録をしていなかったため、相続を進める前に母の印鑑登録という手順も必要になった。これは本人が来庁しなければできないという。そこで、車に母を乗せ、市役所で車椅子を借り、窓口に連れて行き、書類に記入させたところで、「それでは写真付きの身分証明書を出してください」と言われた。母は印鑑だけ持って出てきたのだった。
窓口の人は言った。「ご本人であることを確認する方法が2つあります。1つは、ご自宅に戻って写真付き身分証明書を持ってきていただくこと。もう一つはお母様にいくつか質問をします。そのお答えがこちらにある戸籍データと一致すればご本人であると認められます。どうなさいますか?」機内食の「Beef or Chicken?」より悩ましい二択だ。ビーフもチキンももらうことにした。
役所は家から車で5分もかからない。私は母を窓口に残し、車を飛ばして母の障害者手帳を取りに戻る。待っている間、母は窓口の人が出題する「あなたに関する質問」に答える。
約10分後、障害者手帳を持って役所に戻る。母は問題に正解できず、本人であることを認めてもらえなかったという。結婚前の本籍地住所を思い出せなかったらしい。最近は免許証にも本籍は記載されないので、高齢者でなくとも思い出せない人は多いのではないだろうか。
みなさんもこの機会に印鑑登録と本籍地住所の確認を。デジタル化がどんなに進んでも、きっと相続手続きは煩雑なままだろう。
不動産に関しては司法書士に丸投げ。必要書類を集めて渡すだけ。手続きが終わったら料金を支払うのみ。
我が家は預金の相続と保険金の請求がちょっと大変だった。JAは電話一本で担当者が自宅に来てくれるので戸籍などの証明用書類を準備し、担当者の助けを借りつつ請求用紙に記入捺印するのだが、なんせ数が多かった。父が請われるままいろんな保険に契約していたらしく、そのすべての名義人を変更することになった。
高齢の母は書類に記入するのさえ難儀する。担当者は「まあ、お名前だけ自筆で書いていただければ、あとは娘さんが代筆でもOKです」と言うので、名前だけ書かせたのだが、それでも最後は手が震えていた。
かんぽは受取人が母に指定されており、本人が郵便局窓口に来て請求せよと言う。結局、委任状を書かせて私が手続きをした。2週間ほどして保険金が振り込まれた。JAはというと翌日に振り込まれた。
預貯金の相続は残高によって手続きの煩雑さが異なるらしい。さいわい、メインバンクのJA以外は雀の涙ほどの額だったので比較的楽だったのだが、相続するのが弟だったため、後日1日有休を取って銀行を回った。
年金の手続き(母が受け取る遺族年金)も少々手間がかかった。まず、社会保険事務所に電話をして記入が必要な書類を送ってもらう。社会保険事務所の手続きは予約制で、ASAPで予約が取れたのが1週間後だった。その間、戸籍だか住民票だか証明書を準備して、送られてきた書類に記入する。1週間後に必要書類を抱えて社会保険事務所の窓口に向かった。
「午後4時の予約なんですが」
「お名前は?」
「●●(現姓)です」
「えーっと、そのお名前のご予約はございません。予約日時に間違いはないですか?」
「……あ……▲▲(旧姓)で予約入ってます?」
「はい、あります」
「それです」
今回、このやりとりを幾度となくやった。そして、福岡に戻ってきてからは名前を聞かれると必ずと言っていいほど旧姓を答えてしまい、相手を戸惑わせた。
公共料金などの契約人変更は全部電話で連絡して書類を送ってもらい、弟に記入させて返送することに。こうしてほぼすべての手続きが終了したのが夫の言葉どおり2週間後だった。「じゃあ、明日福岡に帰るから」と言った矢先に弟が言った。
「ねえ、お墓にお父さんの戒名彫るのはどうすると?」