2023年2月1日水曜日

I Love You: 鮎川誠フォーエバー その2

まこちゃんがこの世というステージから降りて3日が経った。私の生活は何一つ変わることなく転がり続けている。朝、ご飯を食べてラジオ体操第一と第二を続けてやったら、パソコンの前に座って夕方まで仕事をする。そして、気が付くと「鮎川誠」で検索している。ひとしきり眺めてため息をついては作業中のファイルに戻る。

私は基本、ハードロックが好きなので、シナロケにはさほど関心がなかった。「ニューウェイブ」に分類していたし、テレビやラジオから流れるシナロケは、なんというか、ちょっと歌謡曲っぽさが強かったのだ。大学生のときに生協でなんとなくサンハウスのLP『有頂天』を買ったのだけど、あまりに暑苦しくてピンとこなかった。当時は、もっとおしゃれな音楽が好きだったのだろう。サンハウスは、あまりに泥臭く、濃厚すぎたのだ。

ちなみに、今はサンハウスを聞くと夏の筑後平野とか、夏のJR鹿児島本線の各駅停車の列車が頭に浮かぶ。九州のサウンドだなあと思う。

社会人になると呑気に音楽を聴く暇などなくなってしまった。30過ぎてから、また音楽を聴くようになっても、当然ハードロックとかメタルばっかり聴く。ギタリストだってテクニカルなギタリストが好きだし、私にとっての神はリッチー・ブラックモアであり、高崎晃であり、ヌーノ・ベッテンコートだったのだ。

それなのに出会ってしまった。知人を案内して訪れた佐賀バルーンフェスタのイベント会場で、シナロケがライブをしていたのだ。歌謡曲っぽさなんて、みじんもなかった。ゴリゴリにロックだった。ぶっといギターサウンドが真っ正面から私に殴りかかってきた。「あ、これだ!」と思った。初めてギターをアンプにつないで大きな音を出したときのワクワクする感じ。何も加工されていない無骨な音の衝撃。そして、長身で黒い服を着て、黒いレスポールカスタムを持つあの姿。それまでに見てきたどんなギタリストよりかっこよかった。カッコよさだけで言えば、クラプトンですら鮎川誠の足元にも及ばないのだ。

それなのに、まこちゃんはとても優しい。誰にでも等しく優しい。ロックが好きなら、世界的なミュージシャンであれ、ライブを見に来たただのファンであれ、みんなに同じように接してくれる。快くサインに応じ、握手して「来てくれてありがとう」と喜んでくれる。まこちゃんの方が喜んでくれるのだ。そんなミュージシャンいるだろうか?

ライブの客層は総じて年齢層が高い。私ですら「どちらかというと若い方の客」なのだ。それでも、ちらほらと若い人を見かける。毎回のように親や友人に連れられて「初めて見に来た」という人を見かける。終演後に彼らが興奮気味に、「カッコよかった! すごかった!」と語るのを常連たちはニヤニヤしながら見守る。

どうして「カッコいい」「すごい」以外の言葉が出てこなくなるのだろう? ずっと考えているけど、いまだにわからない。浜辺で楽しく水遊びをしていたら、突然ゴゴゴ……と大きな波がやって来て、ザブンと飲みこまれてグルングルン流されていく感じなのだ。何度も何度も大きな波の中に飛び込み、グルングルン流されながら、キャーキャー喜んでいた私たちは、今、大海の真ん中にポツンと取り残されてしまった。

幸いにも、各種音楽配信サービスで(おそらく)全アルバムが配信されている。公式の動画もたくさんある。ファンが撮影した写真や動画もたくさんある(シーナが亡くなった直後のライブでまこちゃんが「みんな、写真とか動画とか撮って他の人にも見せちゃって!」的に言っていたのだ)。今日も明日も、仕事の合間に動画を見ながら、小さな波に乗って、自力で水をかきながら、陸地へと戻ろう。3、2、1、0、Dynamite!