2023年2月2日木曜日

I Love You: 鮎川誠フォーエバー その3

鮎川誠といえばギブソンの1969年製レスポールカスタム、通称「ブラックビューティー」だ。有名なギタリストにはシグネチャーモデルがあって、専用ギターをメーカーから提供されていることがほとんどだと思う。しかし、まこちゃんの「ブラックビューティー」はギブソンから提供されたものではなく、もともとは友達の津和野君から借りたものだ(後に買い取ったらしい)。津和野君のエピソードなどは、いろんなところで耳にしたファンも多いと思う。

ちなみに、バンドブームが起きる80年代にはギブソンのレスポールのコピーモデルが出回っていて、お金のない若者に人気があった。私も夫も当時はそうしたコピーモデルを使っていた。ギブソンやフェンダーは高校生にはとても手が出ない値段だったのだ。

現在販売されているレスポールは格段に軽量化が進んでいるのだが、当時のレスポールは本物のコピーもとにかく重かった。現在、我が家にはレスポールの中でもお手ごろなStudioというモデルが2本あるのだが、どちらも重さ3.6kg、なんとフェンダーのストラトキャスターと同じだった。もちろん、まこちゃんのレスポールは軽量化など考えもしない時代のモデルだ。ある新聞記事では約8kgと紹介されていたが、さすがにそれは言い過ぎで、たぶん5kgくらいではないだろうか? 仮に、5kgだとしても、我が家の黒猫の体重と同じである。黒猫をかついだまま2時間、時には3時間も演奏するなんて、とてもじゃないが私にはできない。

演奏といえば、ほとんどのギタリストがエフェクターを使用して音を歪ませたり、パワーアップしたり、わおんわおん揺らしたりする。これは、私程度のへなちょこであってもだ。まこちゃんはエフェクターなんて使わない。でも、まこちゃんの奏でるギターは無骨で荒々しいだけでなく、実に雄弁で、豊かで、温かい。どうしてあんな音が出せたのだろう? ギターが身体の一部になっているとよく言われていたが、あのギターの音はまこちゃんの声そのものだったのかもしれない。まこちゃん亡き今、あのレスポールはもう鳴らないのではないだろうかとすら思えてくる。悲しいけど、心のどこかでそれを願う自分がいる。他の人には弾いてほしくないと。

さて、夫は高校生のころからまこちゃんを崇拝していて、学生時代にやっていたバンドでもサンハウスやシナロケの曲をコピーしていたらしい。数年前から『ユー・メイ・ドリーム』を練習して完コピしたのだが――厳密には、譜面の上での完コピ――そのサウンドには決定的に何かが足りない。彼がライブで演奏した『レモンティー』もなかなかのデキだったし、もうひとりのギタリストもとても上手だったのに、決定的に何かが足りないのは同じだった。きっと、その「何か」こそがまこちゃんが神と呼ばれるゆえんであり(「神」と呼んでいるのは我が家だけかもしれないが)、「オーラ」とか「ロック魂」とかいうものなんだろう。

2019年、ファッションデザイナー菊池武夫のバースデーパーティーで、親交のあるミュージシャンによるライブが行われた(動画はこちら)。私は曲が始まって1分くらい経ってからようやく、「あれ?まこちゃんの横でギター弾いてるの布袋じゃない?」と気付いた。あの大きな布袋ですら、まこちゃんの横では存在感が薄まってしまうのだ。鮎川ファンのひいき目だろうけど……。

SNSにはまこちゃんを偲ぶメッセージだけでなく、市中でのまこちゃん目撃談がたくさん投稿されている。まこちゃんがどんなときもオーラ全開で人々の目を引いていた証だろう。犬の散歩をするまこちゃん。天ぷら屋の駐車場でくつろぐまこちゃん。下北の街をママチャリで走るまこちゃん。雨の日に小学校に娘を迎えに来たまこちゃん。ベンチに座って空を見るまこちゃん。なかでも、一番まこちゃんらしさが伝わってきたのが、辻仁成が目撃した「食器棚を運ぶまこちゃん」(こちらをクリック)。訃報が届いてから沈みっぱなしだった我が家に笑いをもたらしてくれた辻仁成には心から感謝している。ありがとう。