2023年2月3日金曜日

I Love You: 鮎川誠フォーエバー その4

鮎川誠が日本でもいちはやく公式ウェブサイトを作ったミュージシャンであることを皆さんご存じだろうか。Wordpressなんてない時代に、「htmlコード手打ち」でウェブサイトを自分で作ったのだ。ウェブサイト開設までの奮闘記『DOS/Vブルース』(幻冬舎)には、悪戦苦闘しながらスキルを身に付けていく様子がいきいきと綴られている。

1996年に解説されたウェブサイトは当初のデザインのまま更新を重ね、膨大なブルース、ロック、パンクのアーカイブとして今でもほぼすべてのデータにアクセスできる(シーナ&ロケッツ公式ウェブサイト*)。ライブのセットリストも翌日には更新されていた。21世紀のウェブサイトと比べると、雑然としている印象だし、ページ数も多いし、お目当ての情報を探り当てるのも一苦労だ。でも、ぽちぽちとリンクを辿っていると、思いがけないエピソードや素敵な写真に出会うことも多い。ロック好きの人にはぜひ一度ご覧いただきたい。

ところで私は、産業翻訳者として英語を日本語にすることを生業にしているのだが、このサイトで見つけたまこちゃんの訳詞に衝撃を受けたことがある。誰の曲かも覚えていないうえに、確認しようにもサイト内で迷子になってしまっていまだに見つからないのだが、英語の歌詞から立ち上ってくるざらざらとした感覚が筑後弁(!)で再現されていたのだ。ちょうど福岡で開催される英日・日英翻訳者の国際会議の裏方をしていたときだったので、なんとかしてまこちゃんを招聘できないものだろうか?と考えたりもした。完全に、私利私欲だ(笑)

閑話休題。ウェブサイトには海外のミュージシャンとのエピソードも数多く紹介されている。なかでもイギー・ポップとブルースブラザーズとのエピソードは必読。イギー・ポップについては、去年読んだデイヴ・グロールの自伝『The Storyteller: Tales of Life and Music 』にも人情味あふれる裏話があったのだが、懐の広さや音楽への率直な姿勢がまこちゃんと同じで、読んでいてつい笑顔になった。ブルースブラザーズとのエピソードでは、最近あまり感じなくなった「さすが東京は違うな」的感情が湧き上がった。

パソコンに関しては、古希を記念したライブ(2018年7月福岡)にゲストとして出演したピチカートファイブの野宮真貴がMCのなかでちょっと触れていた。その夏はかなりの猛暑で熱中症の話題が出たのだが、「でも鮎川さんは大丈夫かな。だって、昼間はずーっとパソコンの前にいるんだし」というようなことを言っていた。また、Charとの対談では「すぐネットでギター買っちゃう」と話して、Charに「えー? ネットでギター買うの?」と突っ込まれていた。

もちろん、SNSのエゴサだって怠らない。ライブ前にファンがSNSでリクエストした曲をセトリに入れてくれることもあった。私もTwitterでリクエストした曲を拾ってもらったことが3回ある(『Dynamite』『夢のパラダイス』『ハートに火をつけて』)。偶然かもしれないが。まこちゃんについて書いたエッセイをSNSで公開したら、その日のうちに「いいね!」をもらったこともある。とにかく、「つながっている感」がハンパなかった。

このブログを書きながら、あらためてウェブサイトを見ているのだが、本当にとてつもない情報量だ。テキストと画像だけでなく、音源も数多く公開されている。福岡の音楽仲間と共に作られた「ブルースにとりつかれて」という冊子もアーカイブされていたが、発行者であった松本康さんの没後、公開元であったジュークレコードのウェブサイトが閉鎖されたために残念ながら現在はアクセスできなくなっている。サムネイルだけは残っているので、雰囲気をちらっと感じることはできるかもしれない。

シーナもまこちゃんもいなくなった今、このウェブサイトだけでもずっと存在し続けてくれることを願ってやまない。50年後、100年後に偶然このサイトを見つけた誰かが、サイトにアップされている音源にノックアウトされるさまを妄想すると楽しい。


*一部、リンク切れのページや、再生不可能な音声ファイルがある。